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​設立趣旨

「知的障害を伴う自閉症幼児教育研究会」 

 日本国憲法及び教育基本法に示された教育の理念を実現すべく定められた学校教育法は、盲学校、ろう学校、養護学校を幼稚園、小学校、中学校、高等学校などと並ぶ学校と規定しました。その後、障害当事者、保護者、教職員など、様々な関係者の努力で、1979年養護学校完全義務化が始まりました。

 さて、2006年6月の学校教育法一部改正を受けて、2007年4月より特別支援教育が始まりました。特別支援学校や特別支援学級のみならず、小・中学校などの通常学級に在籍する障害児にも法的根拠に基づき支援が開始されています。また、2004年には「発達障害者支援法」が制定され、発達障害(自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能の障害)の早期発見、療育、教育、就労、相談体制などにおける発達障害者支援システムが確立されつつあります。こうした状況の背景の一つには、1979年の養護学校義務制以降、実践現場で発達障害児、特に自閉症児が増加していることが挙げられます。

 自閉症(※)という障害は1943年にカナーによってはじめて記述された発達障害です。現在、国際的に使用されている精神疾患分類体系の一つであるDSM-5(アメリカ精神医学会の「診断・統計マニュアル」)によると、自閉症は次の二つの特徴をあわせもつことによって診断がされます。1つ目は、社会的コミュニケーション及び相互関係における持続的障害です。視線が合いにくかったり、他者と感情を共有しにくかったりすることが挙げられます。2つ目は、行動・興味及び活動の明らかな制約、反復的で常同的な行動など、一般的にこだわりと呼ばれる行動です。また、知覚の過敏さ、鈍麻さも指摘されています。さらに、こうした行動は、発達早期の段階だけではなく、青年期及び成人期になって明らかになる場合もあるとされています。

このように自閉症の診断基準は一定程度統一されてきているものの、保育・療育・教育方法については、まだまだ不明確なことが多くあります。その理由の一つとしては、自閉症と一言で表しても子どもによって状態が異なり、ある子には適切な指導方法であっても、別の子には適さないということが多々見受けられるからです。つまり、同じ自閉症という診断がされていても、子どもの実態に応じて関わり方、指導方法などを考えていく必要があるということです。

 幼児期の教育方法に関しても現場によって様々な手法が用いられています。各指導方法に応じて研究会、研修会などが開催されています。また、20世紀後半から、早期発見の重要性が指摘され乳幼児健診や幼児教育の現場では、各種の先進的な試みが行われるようになってきています。

各地の実践現場で創意工夫が進む一方で、それぞれの考え方、手法などの違いを超えて互いの実践を語り合い、高め合う場が少ないように感じます。幼児期という時期は、児童発達支援センター、児童発達支援事業所、保育所といった児童福祉法に定められた施設での実践と幼稚園、特別支援学校幼稚部といった学校教育法に定められた施設での実践があり、互いの実践について紹介し合ったり、検討したりする場はほとんどありません。療育施設や幼稚部の成り立ちの歴史を踏まえても、それぞれの場が交わることがないのは、仕方がなかったことだと思います。

 しかし、現在は「インクルーシブ」という名の下に、通常幼稚園に自閉症児が通い、児童発達支援センターが「後方支援」をする、児童発達支援センターで早期療育を受けた子が特別支援学校幼稚部に通ってくるなど、互いの機関が関わり合いをもち、幼児期の自閉症児への指導・支援を進めていく必要性が高まっています。併せて、知的障害を伴う自閉症幼児の発達を支えていくために、必要な環境、指導方法、支援サービスなどについて考えていくことも重要です。また、障害者総合支援法、児童福祉法などの改正による乳幼児期の療育環境、福祉環境の変化も踏まえ、今後、幼児期の自閉症児、その家族の生活をどのように支え、どのような指導方法を通して発達を実現していくのかを検討していくことが喫緊の課題であると考えます。

 そこで、知的障害を伴う自閉症幼児が通う幼稚部が設置された本校を事務局として、自閉症幼児の教育に携わる現場の指導者、研究者、保護者などが集い、実践の研究とその共有を進めていく研究会を設立することとしました。多くの皆様にご賛同いただき、ご支援をいただきますよう、切にお願い申し上げます。

 

※DSM-5では、「自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害」と表記されていますが、この訳語はまだ一  般的ではなく、また今後のICD-11(世界保健機関の「疾病及び関連保健問題の国際統計分類」)の改訂動向とも関連するため、設立趣旨書では「自閉症」という表記を用いています。

​賛同人

研究会設立に当たって以下の方にご賛同いただいています。(50 音順 敬称略)
 
 小 渕 隆 司(北海道教育大学准教授)

 河 合 隆 平(金沢大学人間社会研究域学校教育系准教授)

 児 嶋 芳 郎(広島都市学園大学子ども教育学部准教授)

 宍 戸 和 成(国立特別支援教育総合研究所理事長)

 下 山 直 人(筑波大学附属久里浜特別支援学校校長)

 瀬戸口 裕 二(名寄市立大学社会保育学科教授)

 田 中 真 介(京都大学国際高等教育院准教授)

 野 呂 文 行(筑波大学人間系教授)

 原 田 公 人(国立特別支援教育総合研究所インクルーシブ教育システム推進センター長)

 星  祐 子(国立特別支援教育総合研究所総括研究員)

 松 田 貴 義(社会福祉法人清光会支援部長)

 松 本 末 男(筑波大学附属学校教育部教授)

 柳 澤 亜希子(国立特別支援教育総合研究所主任研究員)

 雷 坂 浩 之(筑波大学附属久里浜特別支援学校副校長)
 

 

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